▼よくわからない報道
まほぱぱのところで話題になっている一連の「携帯10年使うと脳ヤバイ」報道をたどってみると、国内ではマイニュースジャパン「ケータイ使用10年以上で脳腫瘍リスク 欧州5カ国調査で発覚も、日本は企業が安全宣言」(植田武智)という記事に行き当たりましたよ。
気になったのは次の一文
・しかし10年以上使用していた人の中で、脳腫瘍が発生した側の耳にあてて携帯電話を使っていた人に限定したところ、脳腫瘍の発症率は39%上昇し、それは統計的にも偶然とはいえない差(有意差)であった。
「脳腫瘍が発生した側」がどっちかわかるってことはもう既に脳腫瘍あるってことだよね?だったら上昇も何も常に100%被験者全員が脳腫瘍じゃん。何を言ってるんだ的な意味不明文章であるな。
▼英紙報道にあたってみよう
こういうのをほったらかしにしておくのは気持ち悪いので、この記事がソースとしているらしきイギリスの新聞報道を読んでみたよ。英国Telegraph誌の「Mobile phone use 'linked to tumour'(携帯電話の使用は‘脳腫瘍と関連がある’)」て記事な。
…えーと、関連?なんか微妙なタイトルです。
39%という数字を頼りに該当部分を読んでみよう
Before separating out long-term users or looking at the different risks of developing tumours on the side where users held the phone, the scientists found no link between mobile use and gliomas.However when they looked only at people who had used a mobile for 10 years or more, they found that they were 39 per cent more likely than average to get a glioma on the side of their head where they held their handset.
ごめん、俺の英語能力が足りないせいで肝心なところがうまく訳せない。ここで言う平均って何?
▼原著論文で間違いのないところを
いよいよ気持ち悪くなってきたので、この英文記事の元になっている学術論文を探してみた。ていうか探してもらった。Epidemiology : Mobile phone use and risk of glioma in 5 North European countries (Anna Lahkola et.al.)
アブストラクトの該当部分はこれ
For more than 10 years of mobile phone use reported on the side of the head where the tumor was located, an increased OR of borderline statistical significance (OR = 1.39, 95% CI 1.01, 1.92, p trend 0.04) was found, whereas similar use on the opposite side of the head resulted in an OR of 0.98 (95% CI 0.71, 1.37).
「腫瘍の生じた頭側と報告された10年以上の携帯電話使用について、オッズ比1.39という統計的に有意な値が見つかった。一方、頭の反対側で同様に使用した場合についてはオッズ比0.98であった」
これはわかりやすく書いてあるのでかなり高い確度を持って言えると思う。ここで「腫瘍が生じた」というのは前提で被験者全員既に腫瘍持ち。腫瘍が頭のどっちかにある人について、10年以上腫瘍側で携帯電話を使い続けた人は58%(オッズ比1.39を確率であらわすとこうなります)。
つまりこれは、「携帯使ってた側に腫瘍が生じたかどうかの調査」ではなくて「腫瘍が生じた側で携帯使ってたかどうかの調査」だってことです。
普通なら脳腫瘍が右と左どっちに出るかといえば半々じゃないの?右50%左50%でどっちで携帯使ってようが関係ないはず。にもかかわらず腫瘍が出たほうで使ってた人が普通より8%ぐらい多いのは気になるポイント。
新聞報道で39%という数字が使われていたのは1.39というオッズ比の取り扱いを記者が間違えたんだろうなーというのは想像に難くない。
▼で、結局リスクは?
さて、では最初に戻って、「ケータイ使用10年以上で脳腫瘍リスク」はあがるのか。という問題。
件の論文はかなり否定的。
We found no evidence of increased risk of glioma related to regular mobile phone use (odds ratio, OR = 0.78, 95% confidence interval, CI: 0.68, 0.91). No significant association was found across categories with duration of use, years since first use, cumulative number of calls or cumulative hours of use. When the linear trend was examined, the OR for cumulative hours of mobile phone use was 1.006 (1.002, 1.010) per 100 hr, but no such relationship was found for the years of use or the number of calls. We found no increased risks when analogue and digital phones were analyzed separately.
▼誤報は続くよどこまでも
で、電磁波コワイで飯食ってる記者が自説に都合よく捻じ曲がった翻訳をして、国内のアンチ電磁波さんとか、大企業ヘイトさんとか、PHS原理主義者さんとかが入れ食いという構図ですかねえ…。当該記事には既にいくつか指摘のコメントが…ああ、粛清されてますね。すごいねマイニュースジャパン。
▼追記情報
タイトルを修正してリスク上昇に関する記述を原著論文のアブストラクトから引用して詳細度をあげました。ついでに段落タイトルみたいなのをつけました。
